建築施工例:個人住宅 嘉島の家
1階を親世帯、2階を子世帯に割り振った2世帯住宅である。とは言え、その間になんらかの関係を持たせようという努力があって、かつその点においていくつかの達成が見られたことがすばらしいと思う。
もっとも大きい達成は、「第三の玄関」という考え方の導入である。これは、2つの世帯への第一、第二の玄関に加えて、アプローチから家の中腹を貰いて庭に至る、つまりは「庭への玄関」を挿入するというアイデアで、この特異なジャンクションが、さらにふたつの世帯のジャンクションともなっている、というところがミソである。つまり、家の中心が大黒柱のようなモノではなく、「三叉路」という交通空間あるいはコトになっているわけで、これは思いつきそうだが実はそうそうない創案であり、ここから今後大きく展開できる可能性があるアイデアだと思った。
また、この家は、各世帯に応じたまったく異なる感覚を与える2層の住宅空間からできているわけだが、外観としては、その違いを、なんとかひとつの統合された雰囲気/構成にまとめようとしている。そのために、各世帯の玄関に重心を与える外観が常識的な解答で あるところを、そうではなく、組み合わせをずらし、親世帯の玄関と第三の玄関に重心を与えることで、あらかじめ二世帯住宅という読み取られ方を回避するというスマートな解が与えられている。そしてその上で、その親世帯の玄関を強調する要素として上階に大き な窓が設けられているのだが、これが2階の空間全体を象徴する「家事室」の開口になっていることにはユーモアさえ感じられる。 さらに、裏の庭からその先に続く畑が、1階と2階で全く異なるタイプの景と捉えられているのもおもしろい。それは、畑の地盤がやや上がっていることから可能になったことだろうが、1階からの景では庭の樹木が主役になって、それをスクリーンとして、背景として空間の広がりが感じられる一方で、2階では逆に大きく広がる畑が部屋の伸びやかさを強調する、というふうに、ひとつのものからまったく別の顔を引き出せていたことは特筆に値する。
記 選考委員 青木 淳(神戸芸術工科大学客員教授、青木淳建築計画事務所代表)
*このページ内の文章と写真は、熊本県土木部建築課発行の2011年度 第17回くまもとアートポリス推進賞の紹介誌より抜粋させていただきました。
もっとも大きい達成は、「第三の玄関」という考え方の導入である。これは、2つの世帯への第一、第二の玄関に加えて、アプローチから家の中腹を貰いて庭に至る、つまりは「庭への玄関」を挿入するというアイデアで、この特異なジャンクションが、さらにふたつの世帯のジャンクションともなっている、というところがミソである。つまり、家の中心が大黒柱のようなモノではなく、「三叉路」という交通空間あるいはコトになっているわけで、これは思いつきそうだが実はそうそうない創案であり、ここから今後大きく展開できる可能性があるアイデアだと思った。
また、この家は、各世帯に応じたまったく異なる感覚を与える2層の住宅空間からできているわけだが、外観としては、その違いを、なんとかひとつの統合された雰囲気/構成にまとめようとしている。そのために、各世帯の玄関に重心を与える外観が常識的な解答で あるところを、そうではなく、組み合わせをずらし、親世帯の玄関と第三の玄関に重心を与えることで、あらかじめ二世帯住宅という読み取られ方を回避するというスマートな解が与えられている。そしてその上で、その親世帯の玄関を強調する要素として上階に大き な窓が設けられているのだが、これが2階の空間全体を象徴する「家事室」の開口になっていることにはユーモアさえ感じられる。 さらに、裏の庭からその先に続く畑が、1階と2階で全く異なるタイプの景と捉えられているのもおもしろい。それは、畑の地盤がやや上がっていることから可能になったことだろうが、1階からの景では庭の樹木が主役になって、それをスクリーンとして、背景として空間の広がりが感じられる一方で、2階では逆に大きく広がる畑が部屋の伸びやかさを強調する、というふうに、ひとつのものからまったく別の顔を引き出せていたことは特筆に値する。
記 選考委員 青木 淳(神戸芸術工科大学客員教授、青木淳建築計画事務所代表)
*このページ内の文章と写真は、熊本県土木部建築課発行の2011年度 第17回くまもとアートポリス推進賞の紹介誌より抜粋させていただきました。
社内季報「いわなが」No.153号より抜粋
第17回くまもとアートポリス推進賞選賞 受賞
- 所在地
- 上益城郡
- 設 計
- 久野啓太郎 一級建築士事務所ヒマラヤ
- 構 造
- 木造2階
- 延床面積
- 163.79㎡
- 竣 工
- 平成21年10月
- 写真撮影者
- 石井 紀久